2025年10月1日、名古屋城の西側に誕生した「エスパシオ ナゴヤキャッスル」。緑に包まれた静謐なロケーションに佇むこのホテルは、伝統と現代が融合した“新しい城”の姿を体現しています。
館内には、「麟鳳亀龍」の四聖獣をテーマにしたアート作品が点在し、美術館のような空間が広がります。日本の歴史や花鳥風月、吉祥の象徴を多彩な表現で描いた作品群は、訪れる人の感性をやさしく刺激します。
今回は、宿泊者限定で行われている約30分のアートツアーに特別に参加し、その魅力を体感してきました。

ホテルのすぐそばを流れるのは、名古屋の歴史を静かに見守ってきた堀川。
石垣とモダンな建築が織りなす風景は、都市の中にありながらも、どこか時間がゆったりと流れているような心地よさを感じさせてくれます。
季節の移ろいを映す水面と、建物の美しい外観が調和し、まるで一枚の絵画のような情景が広がります。

現代に蘇る“城”──エスパシオ ナゴヤキャッスル
重厚な石垣に支えられた外観は、まるで天守を思わせる堂々たる佇まい。伝統的な城郭建築の意匠を随所に取り入れたその姿は、まさに現代に蘇った“城”と呼ぶにふさわしい風格を湛えています。
建物の低層部には、岐阜県恵那市から運ばれた重厚な石を実際に積み上げて構築された石垣が用いられ、確かな存在感を放ちます。一方、高層部は白壁と緑青色の屋根を基調とした色彩計画が施され、名古屋城との美しい調和を実現。さらに、入母屋造りの屋根が日本の伝統美を際立たせ、訪れる人々に和の趣を感じさせます。

ラグジュアリーな車寄せでは、漆黒のボディに重厚な存在感をまとった高級車が並び、非日常の世界への入り口を静かに演出しています。
金の装飾が施された空間と相まって、訪れる瞬間から特別な時間が始まることを予感させてくれます。

「エスパシオ」とは、スペイン語で“空間”や“宇宙”を意味する言葉。この名前には、「訪れるすべての人にとって理想的な空間をつくりたい」「心からのおもてなしを届けたい」という想いが込められています。

「ESPACIO NAGOYA CASTLE」のエントランスは、訪れる人を優雅に迎え入れる、洗練された空間。一歩踏み出すたびに、特別な時間の幕開けを感じさせてくれます。
館内へ進むと、まるで芸術的な地図の上を歩いているかのような感覚に包まれます。

天井からは、モロッコから取り寄せた繊細なデザインの球体型ランプが飾られ、空間全体をやわらかな光で包み込みます。
右手には、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康、三英傑の甲冑が静かに佇み、日本の伝統と現代の美意識が見事に調和した空間が広がっています。

宿泊者専用通路の両側には、七宝や陶器などの繊細な工芸品が静かに佇み、まるで美術館の回廊を歩いているかのような趣を醸し出しています。細部にまで行き届いた設えが、「アートミュージアムホテル」という名にふさわしい、格調高い空間を演出しています。

通路を抜けた先に広がるのは、黄金の鳳凰が舞う幻想的なロビー。エスパシオグループがロゴに掲げる鳳凰は、繁栄や平和を象徴する最も縁起の良い霊鳥とされ、この場所を訪れるすべての人に幸せが舞い降りるように—そんな願いが、この空間には込められています。
名古屋城を望む4階の特別な空間から、アートツアーは幕を開けます。黄金の天井に包まれたその場所には、気高く佇む黄金の松の木。そして、水面に天守を映す池泉庭園が広がり、非日常の世界へと誘います。

井波彫刻協同組合《吉祥》
アートツアーの道中、ふと足を止めたくなるような存在感を放つのが、井波彫刻協同組合による見事な欄間彫刻です。
2018年の名古屋城本丸御殿の復元にも携わってきた職人たちが手がけたこの作品には、《吉祥》という名が添えられています。
鳳凰や龍、松竹梅など、古来より縁起物とされるモチーフが精緻に刻まれ、その一彫り一彫りに、訪れる人々の幸せと平穏を願う想いが込められています。静かに佇むその姿は、まるで空間全体を見守る守り神のようです。

W1.8mのヒノキ材に200本以上のノミを使い分け、紙やすりを使わずに仕上げられた欄間彫刻は、まるで命を宿しているかのよう。 その輝きに、思わず足を止めてしまいます。
その繊細な木肌と美しく調和するのが、伝統文様「麻の葉」の組子細工。麻は古来より神聖な植物とされ、神事に用いられてきました。かつては赤ちゃんの健やかな成長を願い、魔除けの意味を込めて麻の葉模様の産着を着せる風習も。三角形の集合体であるこの文様には、より強い厄除けの力と美しさが宿っています。現代でも、和の空間を彩る意匠として広く親しまれている、日本を代表する伝統模様です。

中林 丈治《光景 −松−》
金属という無機質な素材でありながら、どこか懐かしさを感じさせる彫刻《光景 −松−》。
本作は、名古屋城の襖絵に描かれた松の抽象的なフォルムから着想を得て、「根曲がりの松」として立体的に再構築されたもの。枝ぶりや構図には、実際に名古屋城が見えるようにという配慮が込められ、空間との調和が丁寧に図られています。
見る角度によって印象が変わるのも、この作品の魅力のひとつ。金色の光の反射や背景との関係性により、観る人それぞれの「心象風景」が立ち上がるような、静かで深い余韻を残す作品です。

菅原 健彦《三春》
本作は、福島県の「三春滝桜」を題材とした遺作であり、作家の集大成ともいえる力強い生命力と静謐な美しさを湛えています。
1962年、東京都生まれ。日本画の伝統を受け継ぎながらも、独創的な表現で現代に息づく作品を描き続けた画家。2004年「第2回東山魁夷記念日経日本画大賞展」大賞をはじめ、受賞歴多数。2012年のパリ個展を機に国際的な評価を高め、世界各地のホテルや公共施設を彩るなど、活躍の場を広げた。2025年7月8日逝去。

久住 有生《龍》
4m×4mの天井に鏝絵(こてえ)という左官の伝統技法で制作された《龍》は、力強さとやさしさが見事に調和した作品。空間に静かに佇むその姿は、威厳だけでなく、包み込むような温もりと、内に秘めた精神的な強さを感じさせます。

漆喰のやわらかなで立体的な質感が、龍の神秘的な存在感をやさしく引き立てていて、眺めているうちに心がすっと穏やかになっていきました。伝統と現代がふわりと交わるような、不思議で美しい時間を過ごせた気がします。
この作品、なんと上を向いたまま制作されたそうです。

大沼 憲昭《松鶴図》
エレベーターホールに広がる《松鶴図》は、まるで時を超えて語りかけてくるような、静かで格調高い作品です。金箔の上に描かれた松と鶴は、光をまといながらも、どこか落ち着いた気配を漂わせ、訪れる人の心を穏やかに包み込みます。
松と鶴という吉祥のモチーフは、古くから多くの絵師に愛されてきましたが、大沼憲昭氏の手によって、現代的な感性と伝統美が見事に調和しています。特に、鶴の構図は、エレベーターの昇降を意識して配置されており、作品と空間が自然に溶け合って、訪れるたびに新たな印象を与えてくれます。

一年の始まりを告げる梅と鶴の幼鳥から始まる壁画のストーリーは、訪れる人の心にそっと寄り添い、静かな祝福を届けてくれるようでした。やわらかな色合いと繊細な筆致が、空間にやさしい空気を運んでくれます。
また、背景の塗り方や色の変化によって、絵に奥行きが生まれ、モチーフが立体的に浮かび上がるように感じられました。細部にまで心を配った表現が、作品全体に深みと温もりを与えています。

hanachirou撮影
大沼 憲昭《竹林虎図》
エスパシオ ナゴヤキャッスルのエントランスホールに展示された《竹林虎図》は、静けさと緊張感が共存する、印象的な作品です。しなやかに伸びる竹林の中にたたずむ2頭の虎は、まるで階段の方を見上げ、何かを見据えているよう。その姿は、「動」と「静」の美しい対比を体現し、見る人の想像をかき立てます。
「竹と虎」の組み合わせは、名古屋城本丸御殿の障壁画にも見られる、伝統的な吉祥のモチーフ。竹は節を持ちまっすぐに伸びることから誠実さや不屈の精神を、虎は勇猛さと守護の象徴とされ、武家の理想とする精神性を表してきました。そうした背景を知ることで、作品の奥行きがいっそう深まります。
また、大沼憲昭氏の作品はこの《竹林虎図》だけでなく、1F館内の随所に展示されています。《松鶴図》や《麟鳳亀龍図》など、それぞれの空間に合わせて構成された作品群が、ホテル全体をまるで美術館のような空間に変えています。訪れるたびに新たな発見があり、アートと空間の対話を楽しめるのも、この場所ならではの魅力です。

斉藤 上太郎《麟鳳亀龍図》
エントランスホールにそびえ立つ《麟鳳亀龍図》は、まさに圧巻の存在感でした。高さ約6メートル、幅19メートルというスケールにまず圧倒され、近づくほどに西陣織の繊細な輝きと錺金具の重厚な美しさに心を奪われました。
麒麟・鳳凰・亀・龍という四聖獣が一堂に会する構図は、古来より吉兆の象徴とされてきたもの。そこに込められた「平和」や「特別なご縁」への願いが、空間全体に静かに、しかし力強く響いてきます。

伝統的なモチーフを、現代的な空間にどう溶け込ませるか—その問いへのひとつの答えが、この《麟鳳亀龍図》にあると感じました。古来より吉兆の象徴とされる四聖獣を、西陣織と錺金具で壮麗に表現したこの作品は、「新しい古典」や「進化する伝統工芸」という言葉がぴったり。時代を超えて受け継がれる美意識と、未来への希望が見事に調和した、心に残る出会いでした。

階段下から見上げる《麟鳳亀龍図》の迫力もさることながら、筆者の心をとらえたのは、階段横からの眺めでした。そこから見上げると、階段がまるで龍が天へと昇っていくように見え、作品に込められた「力強さ」や「気高さ」がより鮮やかに浮かび上がります。
さらに、金箔が施された格天井にも、麟鳳亀龍の四聖獣が描かれており、空間全体に神聖な気配を添えています。
アートの魅力は、見る角度や立つ場所によって表情が変わることにもあります。どこから眺めるかによって、新たな発見がある—そんな自由な楽しみ方こそが、アートの奥深さなのかもしれません。

挾土 秀平《白龍》
メルセデス・マイバッハ SL680の奥に展示された《白龍》の壁画は、まるで風がそのまま姿を現したかのよう。静けさの中に確かな力強さを感じさせる佇まいが、訪れる人の目を引きつけます。
舞い上がるのではなく、あえて舞い降りる2体の白龍。その間をふわりと舞う蝶が、空間にやさしさと詩的な余韻を添え、荘厳な中にも柔らかな温もりを感じさせてくれました。

日本の伝統的な左官技法で描かれた《白龍》は、「龍」という存在をこれまでにない新たなかたちで表現したアート作品です。「風の壁」と呼ばれるその空間には、風がそっと心に触れるような、やわらかな優しさが漂っています。白い龍の姿は、静謐でありながらも力強く、その美しさに思わず見とれてしまいます。
また、横の壁のやさしい色合いが、舞う蝶と美しく調和し、空間全体に穏やかで包み込むような雰囲気をもたらしています。

約30分のアートツアーは、ホテルスタッフの丁寧な案内のもと、作品の背景や作家の想いにじっくりと触れる、まさに“感性の旅”のようなひとときでした。
展示されているアートは、ただ飾られているのではなく、建築空間と一体となって存在しており、空間そのものがひとつの大きなアートのように感じられます。カーペットの色彩との調和も美しく、細部にまで心配りが行き届いているのが印象的でした。
館内には、廊下や階段、ラウンジなど、思いがけない場所にも約400点ものアートが点在。歩くたびに新たな作品と出会える感覚は、まるで“アートの森”をゆっくりと散策しているようで、訪れるたびに新しい発見があります。

このアートツアーは宿泊者限定の特別なプログラムですが、「エスパシオ ナゴヤキャッスル」館内に展示されているアート作品にはQRコードが添えられており、宿泊しなくても自由に鑑賞することができます。スマートフォン片手に、自分のペースで作品と向き合う時間は、まさに“自分だけのアート旅”。静かに作品と対話するひとときが、日常にそっと彩りを添えてくれます。
さらに今後は、海外からの旅行者にもこの空間の魅力を届けるため、外国人向けのアートツアーも企画中とのこと。英語対応の案内や文化的背景に配慮したプログラムを通じて、より多くの人がアートを通じて日本の美意識に触れる機会が広がっていくことが期待されます。

日々の喧騒から少し離れて、静かに感性を研ぎ澄ます時間。エスパシオ ナゴヤキャッスルでのアート体験は、そんな“余白”を大切にしたい方にこそおすすめしたい、心に残るひとときでした。
桜の開花も間近に控えたこの季節。お散歩がてら、ティータイムやお食事を楽しみながら、ゆったりとアートに触れてみてはいかがでしょうか。春の光とともに、心にやさしい風が吹き抜けるような体験が、きっと待っています。
エスパシオ ナゴヤキャッスル
〒451-8551 愛知県名古屋市西区樋の口町3番19号
TEL 052-521-2121(代表)
THE ART of ESPACIO NAGOYA CASTLE – エスパシオ ナゴヤキャッスル



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